寺と大黒屋
豆州修禅寺は弘法大師を開基とする元は真言宗の寺でしたが、後に臨済宗に変わり、更に三転して曹洞となり、合わせて開創以来一千二百年の歴史を有する古寺であります。さて、その曹洞宗となった時から今日迄に約五百年の歳月が流れておりますが、このたびはその中の近代的な面に的を絞ることに致します。
それは明治三十年頃から昭和の中期にかけて、寺の中に宗門の専門僧堂が設置された事であります。住職の資格を取るには一定の教学と実務を必要としますが、僧堂はその後者を重として行う所で、それを修行と称しております。もちろんその中には専門的な訓練もありますが、日常の掃除から、およそ身体を動かすもの総て修行の対象であります。したがって食事などもその中の重要なものの一つとされています。
このたびはその食事の一端をお話しいたします。朝は決まって粥と梅干しかたくわん、昼は麦飯と味噌汁とたくわん、夕食は施物か余り物が有れば食する、というものでした。そして週に一度くらい何かの縁日の昼食に一品だけ付くのが例でした。それも動物性の物は削り節の一片すら入れない純然たる精進料理ですから、野菜か豆腐製品という事になります。
ところで、大黒屋さんは寺の裏木戸から歩いて二分ですから直結していると言っても過言ではありません。何かというとすぐ大黒屋さんでした。今考えますと青年時代にタンパク源の供給元である大黒屋さんのお陰で八十八歳を過ぎた拙衲がこのように勤めさせていただいているのかも知れません。また、大黒様は主としてお勝手を守ってくださる神様で、当山には弘法大師作と伝えられる木像が、大師と同じ場所に安置されていますが、ことによると大黒屋の屋号も寺から出ているのかも知れません。
平成十七年十一月十五日 修禅寺四十二世 大全徳潤 記
アクセス
【お車で】東名高速道路 沼津インターから伊豆縦貫道経由、修善寺インターで下車、西へ約2Km。修善寺温泉街 中心「修禅寺」から西へ約50m。
【電車で】東海道新幹線 三島駅乗り換え、伊豆箱根鉄道にて終点修善寺駅下車。1番線バス乗り場から「修善寺温泉駅」行き、終点「修善寺温泉駅」下車。西へ徒歩約5分。